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或る旅人

公開日: : 最終更新日:2016/01/12 ユウジ 記事

 

僕には心から尊敬している人、Tさんがいる。

僕の旅の師匠だ。

彼の「旅すること」に対する考えの純粋さは、時に畏怖の念を感じる。

まるで子供のような、痛ましいほどの純粋さ。

 

武勇伝をひけらかす旅人というのは腐るほどいる。

弱い人ほど、「俺がいかにすごいか」をわからせようとする。

それをした瞬間、同時に別の面をわからせていることに気づいていない。

わからせようとしない限りは、わかってもらえない程度の人だということを。

 

そもそも、動機が純粋な人間は、他人の評価は求めない。

子供は自分が書いた絵に採点などしない。採点するのは大人だけだ。

子供と大人に明確な隔たりなど存在しないが、

子供と呼ばれる種族はただ、やりたいからやってるだけだ。

純粋さをもったまま大人になることの苦しみも、僕はよくわかっているつもりだ。

その種の人間を侮辱するための言葉も、すでに数えきれないほど存在する。

それを作るのも使うのも使われるのも、大人だ。

 

Tさんと会ったのは今から約5年前の、インドの田舎町だった。

いわゆる旅人的なゴリゴリな風貌とは間逆の、短髪でさっぱりとした髪。

個性よりも機能を重視した服装。

何よりもまだ旅に対してなにも擦り切れていない、

新しいものをもっと見たい、という目をしていた。

きっと旅はまだそんなに長くないだろうと推測した。

3ヶ月も旅を続ければ誰でも、好奇心が磨耗する。

吸収量の多さにも疲れ、

なんで旅してんだっけ?と目的を見失い、

ただ見たいから、やりたいからという初期の純潔な動機がなくなる。

 

僕は1週間もその田舎町に滞在していて、少し傲慢になっていた。

足なんか組んじゃって、ああどうもこんにちわ。とばかりに。

あーはらたつ。あの瞬間にタイムスリップしてハリセンでバチーンとやりたい。

ブラジル人ヒッピーとのハードな旅を終えたばかりの僕は、久しぶりの日本人というのもあり、

ここぞとばかりにひけらかし、

彼はとても楽しそうに笑ってくれた。

「すごいなあ。」彼は純粋に、僕の体験に対してそう感想を述べた。

ただそう思ったから、言っていた。目を輝かせて。

彼は名前以外は多くを語らず、部屋に戻った。

 

次の日。

 

「よく覚えてないんだけどね。たぶん130くらいだと思うんだけど」

という彼の答えに僕は固まっていた。意味がわからなかった。

僕は礼儀として、一応聞いてみたのだった。何ヶ国くらい回ってるんですか?と。

それに対する答えの、まるで欲も感情も込められていない、

「ただ情報を言葉にして伝えただけ」の彼の発言とその内容のギャップが、僕を混乱させた。

数 な ん て ど う で も い い よ ね

腹の底からそう思っている人しか作れない5秒間に彼は言葉を載せて、僕の前にふつうに置いた。

その所作のあまりのふつうっぷりが、あまりにふつうで、怖くも感じた。

彼はその当時で3年半ぶっ続けで旅をしている玄人中の玄人だった。

長く旅をしていると必ず一つは持つことになる「あの時は死ぬかと思った」エピソードも、

ケタ違いもケタ違いのレベルのものだった。

アフリカでマラリアで死にかけた話を淡々と話す彼。

僕はといえばもう、冷え切ったチャイを片手にこの人なに言ってんだ?状態だった。

死にかけた、ってかもう、逝ってきましたってレベル。

ガンジス川どころじゃない、

三途の川でバタフライして自力で戻ってきたような人だったのである。

日本大使館も総出で動き、

海外保険の「まじでやばい時家族が現地まで飛んでくる費用保証」で家族がアフリカまで飛んできて強制送還になったらしい。

(後にも先にもあの保険が適用された人を彼以外に知らない)

そして強制送還後、

「またバイトしてお金貯めて、

鳥取から船でウラジオストク行って、

シベリア鉄道でロシア横断してバルト三国回って、

トルコまで下って中央アジア横断して中国まで抜けて。

ウイグルからフンザまで下って、

アムリトサルからインドにはいったとこなんです。」

まるで他人事のように話す彼。

 

ただそうしたかったから、した。してるだけ。

また手段としてお金を貯めて、やりたいから、やってるだけ。

過去にはもうすでに興味なく、

べつにふつうに、やってるだけ。

 

僕はなぜか、ものすごく感動した。こんなにまっすぐな人がいるのかと思った。

この人こそ、旅を本当に愛してる人だと思った。

この人はすでに完成している。

途上にいながら完成している。そう思った。

その出会いは僕の想像力の幅を、大きく拡張してくれた。

こんな人になりたい。

そう思ってしまった時点で、僕は社会的には不適合者なのだろう。そういうの、別に社会はいらないから。

でもあの瞬間の心の輝きだけは、どうしようもなく、嘘じゃない。

そのギャップに、旅を終えた人たちは皆、

日本に帰ってきてから苦しむことになる。

現実とは、果たしてどちらなのかと。

夢は、どっちなんだと。

それを決断しない限り、どこにも行けなくなる。

ギアをニュートラルにいれたままどっちに行こうか考えてるうちに、

燃料だけがなくなっていく。

 

彼はその後壮大な旅を終え、

「これでもういつ死んでもいい」と言って、

故郷の四国に戻ったのが3年以上前。

そこで過ごしていくうちに重大な事に気づいてしまったのだと思う。

日々は続いていく、ということに。

彼が故郷で感じていることを想像するのは容易い。

いま僕がこの町で感じていることだからだ。

日々は続いていく。終わりの瞬間まで絶え間なく。

 

彼とは会って話したのも数日だけだし、メッセージも年に1,2回程度だ。

それも必要な時に、お互いに必要なことだけを伝え合う。

それでも彼は僕にとって、数少ない本当に信頼できる友人だと思っている。

そんな彼から先日、約一年ぶりにメッセージがきた。

その文を読んだ時の気持ちを忘れないために、これを書こうと思ったんだった。

 

「周りはみんな結婚とか出世とかステップアップしていく中で、俺はどうしようもない人間だけど。

また、旅に出ようと思います。ただ無目的に、今を楽しむために。」

 

その文を目にした瞬間に、

洗練された「それでいい」という文体が、

凝縮されたカタマリとなって空から落ちてきた。

それを彼の住む高知県に向かって、

バットかなんかで思いきり打ち飛ばしてやりたかった。

スッカーーーーンという乾いた気持ちのいい音を立てて、思いっきり。

なぜかそんな気持ちになった。

 

彼がどうしようもない人間じゃないことは、誰よりも僕はわかっている。

もし本当に誰かが彼をどうしようもない人間だ、と言ったとしても、

僕はまるで反応しないだろうと思う。単純にそれは間違ってるからだ。

彼は反社会主義者でも、理想主義者でも現実主義者でもない。

ただ、一人の人間として、

自らの人生に、今日に、

責任を持とうとしているだけだ。

「無目的に今を楽しむ」ことができる手段を自分でわかっている人間の、

一体どこが、どうしようもないというのか。

 

彼は旅ブログなど絶対にしないだろう。

それは彼のしたいことではないからだ。彼の「ふつう」の範疇にないからだ。

よって彼の体験は永遠に彼の中にしか存在しないだろうと思う。

でも忘れてはいけないのは、

そういう種の人間は、現実にこそ存在する。

もしかしたら、すぐ隣に。

目に見える、FBやインスタのタイムラインに流れてきた人たちだけが世界を作っているわけではない。

たぶん、想像している以上にあらゆる分野にいるんだと思う。

見えないだけで。見てないだけで。

これは何より、僕自身に言ってるのかもしれない。

「クソみてえに小せえ仮想世界の住人達に踊らされんのは勝手だけどよ、

お前自身の現実も見失ってる分際で、

僕だけが、とか考える価値、お前ごときにねえからな。」って。

 

僕は彼がまたあのふつうの格好で、ふつうの目で、

どうしようもない自分を肯定して、

「どうしようもねえな俺は」と笑うために、

たった一人で知らない町をバックパック背負って歩いている姿を想像すると、

なぜかとても、

幸せな気持ちになる。救われる気持ちになる。

僕も負けねえぞ、じゃなくて、

僕も、こんな僕でも、やりたいことやっていいのかなと、思わせてくれる。

そしたら僕も、僕の途上から、

「ここにもどうしようもないのがいますよ」と言って、

手を振りたい。

 

どちらが現実であるかなんて、僕はとっくにわかってたんだった。

 

僕はまた全てをぶっ壊して、ゼロから自分自身を再構築することに決めました。

Tさんありがとう。心は軽い。

 

 

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Comment

  1. aki より:

    愛すべき旅の人よ
    懐かしき旅の匂い

  2. arisa より:

    こんにちは。ブログ、Instagramいつも拝見してます!私もこのTさんに、3年半前にフィリピンでお会いしました。全てが一致するので、同じ方だと思います。面白くて素敵な方ですよね。驚いてコメントしちゃいました。笑

    • Ace-UG より:

      コメントありがとうございます!
      ビーチになんて興味なさそうだし、フィリピンが素晴らしく似合わない方ですがきっと離島のジャングルでも攻めたんでしょうかね。

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